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瀬戸内海の離島から来たSOSで始まった、新しい離島医療モデルづくり

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自信を持って「離島医だ!」と言えるようになるための教育プログラムを、へき地・離島の医療機関と連携し提供しているゲネプロの齋藤学先生。そんな齋藤先生のもとに、離島を有する愛媛県のある町の町長から、1通のメールが届きました。「ピンチです」とはじまるメールをきっかけに、離島医療の新たな取り組みが始まりました。

「ピンチです」という題名でメールをいただいたのは4月下旬だった。

題名: ピンチです

齋藤 学 様

突然のメールで恐縮ですが、ゲネプロの趣旨を読み、お願いすることにしました。こちらは愛媛県上島町ですが、町内の魚島診療所の医師が6月に急に辞任することになりました。人口170人ほどの、瀬戸内海の燧灘に浮かぶ小さな離島なので後任の医師を確保するのは容易ではありません。医師会など各方面に問い合わせや照会をしておりますが、前回同様、困難を極めそうです。

上島町長  宮脇 馨

私はすぐに宮脇町長に会いに行った。お会いしてみると誠実で、目の優しい方だった。私はこう言った。

「一人診療体制のため、決して片道切符にならないようにしなければなりませんし、きちんとスキルアップできる環境でなけば、新しい医師は来ないです。ただし遠隔診療や救急艇、ドクターヘリ、緊急代診制度などの体制整備を図ることで、毎月の完全休や定期的な都市部での研修に参加できる体制は整えることができます。

あと、これは提案なのですが……せっかくなら離島医療の最先端をいくオーストラリアやカナダとタッグを組んで島国ニッポンから、離島医療モデルの情報を発信する研究所を併設してみませんか?」

町長は間を置いた。そしてこう言った。

「やりましょう。この島に必要なのは医療だけでなく、医療システムです」

瀬戸内海の離島から全国に、いや世界に離島医療のモデルを発信しようという大胆な提案にも、即座にGOを出せる肝の座った町長だった。

この人と一緒にやってみたい。こうなったら世界最先端のオーストラリアのみならず、カナダ、ノルウェー、そしてWHOとタッグを組んで島国ニッポンから情報発信してみよう。

こういうわけで、ゲネプロとして、愛媛県上島町の離島にある魚島診療所の医師を募集することになった。魚島診療所の一角にCentre for Remote Health in Japan(仮称)を設置するので、診療所での外来診察の傍ら、離島における診療体制の構築にも携わってもらい、離島医療モデルの研究発表をすすめてもらう。

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診療は、一日平均10名程度。魚島と隣の高井神島の島民約200名の健康を守っていただく。また、一人診療体制ゆえのさまざまな弊害を解消するための体制を、一緒に考え実行していってほしい。

例えば、豪州にならい緊急代診制度(emergency locum support)や24時間体制の遠隔医療の導入、Physician Assistantの育成など。他にも、医師の休みを確保することも重要なので毎月の完全休を設定したり、定期的に都市部で研修を受けられる制度の構築をしたりすることもできるだろう。離島への赴任を片道切符にしないために、任期の設定を行い、任期終了後のキャリアもともに考えていく。ぜひ既存の枠にとらわれず、医師が働きやすい離島医療モデルを一緒に構築してほしい。

実際にスキルアップの面では、豪州のJames Cook Universityが提供するMaster of Rural and Remote Medicine(通信制)を受講することが可能だ。もちろん受講資格を得るためにIELTSやTOEFLを受ける必要はあるが、その準備もゲネプロがサポートできる。ちなみに入学が認められた場合は、なんと授業料が免除になる…!

研究発表に関しては、豪州のJames Cook Universityが木曜島に設置したThe Australian Institute of Tropical Health and Medicineとの共同研究を視野に入れている。さらには豪州のみならず、カナダやノルウェー、他にもWHOなどのへき地医療研究者とも連携してきたい。つまり、多施設共同研究のチャンスもあるということだ。豪州に出向く際の旅費支援制度はすでに整っている。

離島医療体制の構築には、上島町長はじめ住民の方々が全面的に協力してくれる。豪州はじめ世界の離島医療を視察してきたゲネプロも支援に入る。適度なバックアップがあるなかで、ゼロから離島医療体制を構築していける機会はめったにないと思っている。離島医としても研究者としても成長できる環境が魚島診療所には整う。応募条件は、医師経験6年目以上。ぜひ果敢に応募してきてほしい。これからの離島医療システムの構築を目指す研究者が集まる魅力的な場所にしていきましょう。

ゲネプロへの問い合わせ

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医師プロフィール

齋藤 学 救急科

合同会社ゲネプロ
2000年順天堂大学医学部を卒業、千葉県国保旭中央病院にて研修。2003年から沖縄県の浦添総合病院、鹿児島県徳之島徳洲会病院などに勤務し、2015年合同会社ゲネプロを設立、代表に就任する。2017年4月から「日本版離島へき地プログラム」をスタートさせた。
ゲネプロ

http://genepro.org/rgpj/

齋藤 学
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