在宅医療ってなに？

先生、早速ですが「在宅医療」とはどのようなことをされるのですか？

「在宅医療」とは、様々な病気のため、病院に通うのが難しい患者のお宅を、医師が定期的に訪問して診察を行うことです。定期的に訪問する事により、患者の病状に応じた、日常の健康管理を行ないます。例えば、風邪などをひいていなくても、体の調子が悪くなくても診療に伺います。

それに対して「往診」というのは、病気の時に急に呼ばれていく地域の先生、昔の赤ひげ先生のイメージですね。調子の悪い時に駆けつけることです。しかし、在宅医療訪問をいつも行っている方場合でも、具合の悪い時に診療に行けばそれは「往診」となります。

そして、病院のある神楽坂でコミュニティ作りを行なっているとお聞きしました。具体的にはどんなことをされているのでしょうか。

私の病院のある神楽坂で、医師、看護師、ケアマネージャー、そして一般の住民の方々が集まり、健康や医療に関するディスカッションを行っています。嬉しいことに、ご盛況いただいていますよ。
今後も、様々な人が医療や介護について対話できる場を企画しています。

例えば地域に住む医療介護有資格者や大学生、商店街、町内会のみなさんと「街の健康カフェ」を行ったりしています。医療介護の有資格者だけの場はよくあるのですが、それだと実際の症例の話になってしまいます。
「街の健康カフェ」では「介護を遠ざける為に地域ができることはなんだろう？、地域医療をどうしていくべきか？」などのブレストを住民の皆さんと行なう場を作っています。

今後はさらに、介護や病気等に無関心な層にアピールしたいなと思っています。神楽坂坂巡りウォーキングや、絵本作りなどの企画などを考えています。

ところで、先生がこの活動を始めた背景をお聞かせいただけますか。

僕はずっと地域に根ざした医療を行いたかったのです。医療の対象は、病棟に居る方だけではなくて、病気になる前の方も含まれると考えています。その方々の病気の予防も含めた地域全体の医療をしたいんです。

東京などの都心部は特に高齢化が加速しており、75歳以上の人数が増える割合は約4-5％以上以上と言えます。田舎だと約1-2%前後ですから、どれだけはやいスピードで高齢化しているかわかるでしょう。2025年には、団塊世代が一斉に、後期高齢者である75歳になります。

何かあってから慌てて病院を決めるのではなく、普段から地域の人と関係作りをして、医療に関する情報交換をしておく。そうすると、いつもと様子が違えば、地域の人が気付いてくれるでしょう。今、都心では隣に住んでいる方も知らないことが多いので、地元でもまずはコミュニティづくりから行おうと思い、実践しています。

自分が「患者の家族」となって初めてわかったこと

在宅医療に地域のコミュニティ作りと、塙先生は病院の中に留まらず外に出て精力的に活動されているのですね。今のように活動し始めたきっかけは、どのようなものだったのですか。

医師になって10年ほど経った頃、このまま狭い専門分野のスペシャリストであり続けても、偏ってしまうという危機感を感じていました。もちろん、突出した医療スキルで社会貢献が出来る、立派な医師もいるでしょうが、僕はそうなれない。

そんな中、義父が脳梗塞になり、介護を必要とするようになりまして…。洗濯物を変えにいかなくては、とか、急に病院から電話がかかってきて呼び出される、などと言った、「介護をする大変さ」を、身を持って体験しました。
今まで医師としてしか病気に関わっていなかったので、恥ずかしながら初めて「患者側の目線」が理解出来たんです。

また、高齢者は様々な病気を複数抱えているので、一つの専門だけでは対応しきれません。足腰の問題、脳梗塞、認知症、高血圧、糖尿病…と、一人の人間に複数の要素が入っているので、各分野を知っており、初期対応ができるジェネラリストが求められます。
ジェネラリストは、総合的にさまざまな病気、症状の患者を広く診ることができますから、高齢者が増えていく中、地域内で何でも相談できるジェネラリストがいた方が良いのではないか、と思ったのです。

更に、私は学生時代、ラグビー部に所属していたのですが、その時にチームで動くことの重要さを学びました。その経験から、ジェネラリストとして様々な人とチームで動く方が、自分の能力や他者の能力を最大化できるような気がしていました。
ただ、出世欲、業績、地位、年収等、今まで築き上げて来たものを捨てることにもなる。2年間考えすぎて、同僚に「鬱になった」といわれました（笑）

悩んだ結果、やはりスペシャリストとの医師から、ジェネラリストとして地域とチームで仕事をする道へ進むことにしました。
ところが、いきなり地域でチームを組んで医療を行おうにも、私には圧倒的に社会経験が足りませんでした。名刺の渡し方や、電話の取り方、更には挨拶の仕方など基本的なコミニュケーションさえわからなかったので、自分の人間としての不足部分を補うためにも社会を知るためにも、医師12年目に一般企業に就職する事にしました。
既に35歳で、コンサルティング会社に就職しました。年収は3分の１になりましたが、無知な自分に給料がもらえるのはありがたかった。

最後は医療コンサルティング会社の運営にも関わりました。医療の経営って、「ここでは儲からないから撤退しよう」とか「競合がやっているから、うちもそうしよう」とはいかないのです。
今、その経験を現場で活かして、患者様や医療者と地域を組んで、高齢化へ立ち向かう社会にしようとしています。

ラグビーとチームでの医療

会社員だったと聞くと、なんだかかなり親近感を感じてしまいます・・・そして、学生時代のラグビーが出てくるとは！

ええ、中学高校とラグビー漬けの毎日でした。チーム内は、背が高い人、低い人、ガタイがいい人、頭がいい人、と多様性に溢れていまして。そこで副主将としてマネジメントをしていた経験が、今の医療現場でも役立っているんです。

地域医療も、看護師、ケアマネージャー、介護福祉士、地域住民それぞれが、チームの中の自分のポジションがあって、役割をこなしています。
ラグビーグラウンドのフィールドが、今は地域医療になった、という感じです。
だから今、僕がやろうとしているのは地域に根ざしたチームを作ろうとしているところなんです。
学生の頃から、変わらないですね。

読者のみなさんへメッセージお願いします。

僕が今やっているコミュニティ作りは、地域の人に健康・医療・介護に興味をもってもらうことが目的です。今は主に医療関係者が集まっているかたちですが、今後は、医療に特別興味や関わりがない方、この「coFFee doctorsの読者のような方々」とも一緒にイベントなどを企画できればと考えています。
まずは神楽坂を歩くイベントや街の健康カフェに、ぜひ気軽に参加して下さい。それをきっかけに地域の人を知って、また健康や医療について話して、医療って身近だなと思ってもらえれば嬉しいです。

ライター・インタビュアー/松澤亜美