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感染症問題〈2〉 ソーシャルネットワークが社会を改善する可能性

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職場の同僚にウイルス性肝炎の感染者やHIVの感染者がいると、約3割の方が「感染したらどうしよう」という不安を持っていることが分かっています。そうした不安から偏見や差別につながることが懸念されます。解決に向けた対策について伺いました。

 

-誤った認識や偏見をなくすためにはどのような対策が必要でしょうか?

正しい知識をもっと多くの人に広めていくことが重要だと感じています。しかし、それが非常に難しいことを痛感しています。正しい情報をきちんと伝えていくことの重要性は、誰しもが理解しているのですが、感染症というものがホットトピックではないので、そもそも感染症に対して関心を抱く人は普段はあまり多くありません。

また、メディアに対しても、こうした事実を書いて載せてもらうように働きかけているのですが、「どう伝えていいのか分からない」「それを載せることでどのような反応が出るか分からないので、載せられない」を言われてしまいます。

確かに、「こうすれば100%守れます」ということは書くことができませんが、せめて世界肝炎デー(7月28日)や世界エイズデー(12月1日)と日にちが決まっているので、その時を狙ってまずはきちんとした情報提供をメディアと協力して行う必要はありますね。また、そのためにメディアに関わる人の教育をしていくことも方法の一つだと思っています。

 

―他に考えられる解決方法はありますか?

もう一つの方法として、オピニオンリーダーのような方に感染症に対する正しい知識をつけてもらうということです。中国や南米で行われていて効果が上がっています。

まず、地域のオピニオンリーダーを40~50人集めHIVに関する知識をレクチャーします。日常生活でHIVについて誤った話題が出た時に「そうではないんだよ、本当はこうなんだよ」ということを言ってもらうのです。もちろん積極的に情報発信もしてもらいます。地道ですが、実は非常に効果があると言われています。こうしたことは日常にもあふれていて、例えば、デジタルカメラや液晶テレビが普及していった背景にも、オピニオンリーダー的な人が関心を持って買い、それが徐々に普及し広まっていくということになります。

ソーシャルネットワークの力は、かなり強力で今後さらに重要になってくると思っています。タバコを吸う人の周りにタバコを吸う人は集まりますし、太っている人の周りには太っている人が集まるということは、よく言われています。またよい健康習慣のまわりの人はよい健康習慣の方が多いです。

日本では、2年ほど前に風疹が流行して、「ワクチンを打ちましょう」と大々的に宣伝をしていましたが、ワクチンを接種した人と接種しなかった人の間で大きな差が出たのは、知り合いが打っているかどうかということでした。知り合いが打ったことで「どこで打ったの?」など具体的な話に発展しやすく行動につながりやすいと考えられます。

同じような形で、身近にいるオピニオンリーダーに正しい知識をつけてもらい、機会があるごとに発信するようなソーシャルネットーワークを活用した取り組みが、実は安価で確実なのかもしれないと考えています。

 

(聞き手 / 北森 悦)

感染症問題〈1〉  HIV、ウイルス性肝炎に感染した人に対しての誤った認識

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医師プロフィール

和田 耕治 産業保健修士

医師 医学博士
国立国際医療研究センター国際医療協力局の医師。2000年に産業医科大学医学部卒業、臨床研修を経て、企業での専属産業医を務める。2006年にMcGill(マギル)大学産業保健修士修了、2007年に北里大学大学院労働衛生学医学博士号を取得、同年4月、北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教に就任。2009年9月より同大学講師、WHOコンサルタントを務め、2012年より北里大学医学部公衆衛生学准教授 2013年8月より現職。

和田 耕治
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