国内外の「地域」を見る目を養う実践的GLOWセミナー
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2015年9月5,6日で行われた第4回GLOW短期集中セミナーは、「既存統計資料から課題を読み解く地域診断」をテーマに開催されました。参加者は27名、北は北海道から南は鹿児島県まで、全国各地で地域医療や国際保健に従事している方が東京に集結しました。初日は、今回のワークショップの基礎となる「健康の社会的決定要因」、「地域診断」に関する2つの講義と、その後、各グループに分かれて割り当てられた地域について地域診断を行うワークショップが開催されました。
最初の講義は、千葉大学予防医学センターの特任研究員であり、GLOW理事長でもある長嶺由衣子先生による講義「健康の社会的決定要因とは?」でした。前半はこの概念が出てきた経緯から、生物としての個体、個人の社会経済的環境、人と人とのつながり、環境としての社会・政策などがどのように人間の健康に影響を及ぼすのかを学びました。また後半は、国家間や個々人の寿命の違いを例に、WHOや日本からの豊富な研究結果をもとに健康の社会的決定要因の影響の実例が数多く挙げられていました。さらにはその対策を考える上で大切な概念として、「Equity(公正)」と「Equality(平等)」の違いについても学ぶことができました。
次の講義は「プロが教える地域診断」と題し、全国の保健師や行政とともに地域診断を行っている国立保健医療科学院の石川みどり先生に地域診断のコツを教えていただきました。厚生労働省が発表した健康日本21(第二次)を踏まえて各自治体が政策やプログラムを考えていく中で、医療従事者や病院、その他のセクターが実際に自治体と組んで何ができるのかということを、さまざまな自治体の状況を例に挙げて講演されました。
お二人の講義は参加者からの満足度が非常に高かったです。「健康の社会的決定要因について系統的にいろいろ教えていただけて勉強になりました。もっと長い時間、聞きたかったです。」、「EQUALITY と EQUITY の違いについて学べて良かったです。これは私がずっとずっと考えていた国際協力のアプローチでした。」「地域診断の講義は、自治体とのやり取りの経験を基に説得力のある話でした。特に成果をデータで示さなければいけない、医療費節減は重要なポイントという点を、改めて理解しました。」といった感想が寄せられていました。
セミナーのメインである地域診断のワークショップは、現在GLOWの研修員が勤務をしている北海道余市町、長野県佐久市、そして鹿児島県徳之島町の3つの地域が例として扱われていました。総務省のE-statをはじめ、人口動態、死亡率、保健師の問診データや介護情報、医療情報、医療機器の配置状況などさまざまソースから情報を集め、どんな問題や強みがその地域にあるのかということを浮き彫りにしていきました。 また、それぞれのグループには現在その地で働いている方がメンバーとして参加していたため、実際に現地で働いている中で感じていることを生の情報として活用していました。
本来地域診断は、データを現場で取ったりさまざまなところから集めたりして数か月かけて診断をしていきます。それを1日半で行うので、時間的にはとても厳しいものがありました。しかし、1日半である程度の結論まで出すことを課されたことで、濃密な学びとなったようです。
参加者からは「臨床にいるとケアだけに集中してしまいがちだが、地域に目を向け、広い視野で看護師を続けたいと思った」、「どこで働くにしても、人を取り巻く社会や地域を見ることは、全ての基礎であると感じた」、「余市グループでしたが、余市の情報だけ見ていても出てきたデータがどのような意味があるのか分からず、全国や少なくとも北海道と比べて意味を理解しないといけないのが難しくもあり、その重要性を知れた」と、今後それぞれの活動に活かしていけるものを身につけられていたようです。
理事長である長嶺先生は、このセミナーを運営する意義をこのように話されています。
「日本には、国際保健に関心を持ちながら地域医療に従事している人や地域医療に従事しながら国際保健に従事している人たちがいます。また、医療者でなくとも、その技術や知識を活かして人々の健康に役立ちたいと考えている人たちがいます。GLOWがそうした人たちのために道をつくっていくことは容易ではありませんが、職種を越えてさまざまな人が集まって情報交換を行える場をつくり、このネットワークの中で自分に必要なものを吸収し何らかのチャンスを得てほしいと思っています。さまざまな人やリソースをつなぎ、他と比較する場を用意することで、地域医療や国際保健の現場から出てくるニーズや課題の解決方法を導き出したいと考えています。」
職種を越えた人たちが集まり、つながりをつくるために、1泊2日でひとつの課題に取り組むのは有効ですし、それぞれが今現在働いている場所ですぐに活用できる知識も身につけられることは、参加者にとって大きな収穫です。大規模でなくとも、息の長い活動となることを期待します。
医師プロフィール
長嶺 由衣子 総合診療医
千葉大学予防医学センター
2005年一橋大学社会学部(政治学、医療人類学)卒業/長崎大学医学部3年次学士編入学、2009年長崎大学医学部卒業/沖 縄県立中部病院プライマリ・ケアコース(離島医師養成コース)、2012年沖縄県立南部医療センター・こども医療センター附属/粟国診療所所長、2014 年千葉大学予防医学センター特任研究員