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地域包括ケア時代に求められる、医療・介護の役割とは[3] 持続可能性

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記事

医療・介護サービスは公的給付に依存している状態ですが、社会福祉財源にも限界があります。持続可能なサービスとするために求められる、保険事業と診療報酬・介護報酬のあり方とは。医療経済研究機構所長(前国立社会保障・人口問題研究所所長)西村周三氏と、医師であり厚生労働省医政局地域医療計画課 救急医療対策専門官としても従事されている亀山大介氏、そして元日本経済新聞編集委員でジャーナリストの浅川 澄一氏が発表されました。 

【プレゼンテーション】

自立支援の仕掛け方がカギ ―西村 周三 氏

医療経済学の草分け的存在の一人である西村氏は、今のうちに財政負担をこれ以上増やさないようにすることが課題であると話されました。

「医療費も介護費も、90歳を過ぎるとなるとどうしても色々とかかってきます。今の状態が続いていくと、10年後くらいにはどこの費用をカットするかという議論が生じることは間違いありません。そこに備えて、今のうちに患者本人の自立支援を、専門職がどう仕掛けていくかがカギではないでしょうか。しかしお金のことが第一に考えられてしまうとろくなことにならいので、そこは『こういうことを実現したい』という志や理念といった人間のパワーによって行動してほしいと思います。

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急性期医療からみた高齢者医療の実情 ―亀山 大介 先生

臨床医として救急医療に従事されながら行政の業務に携わる亀山先生からは、急性期医療の観点から見た高齢者医療について、各統計を用いながら語られました。

「重症の高齢者の救急搬送が年々増加している中で、そのようなケースが多く振り分けられる二次救急の数が減少しており、救急医の負担も大きくなっています。また、高齢者の場合複数の疾患を持っているので、救急車で突然運ばれてくるとなると、どうしても病院の選定に時間がかかります。」

救急病院の負担を減らすため、行政は病院の受け入れ窓口を増やす取り組みを行っているとのこと。一方、治療が施された後の問題として、ADL(日常生活動作)が低下した状態で、どのようにしてそれまでの生活に戻ってもらうかが問題となっています。

「回復期、慢性期の病床が少ないと、急性期病院に救急車で運ばれてきた方の退院先を確保するこできません。病床を空けることができないため、救急車の行き先がなくなってしまうという悪循環が生じています。そこで、急性期から慢性期への移動をスムーズに行うために病床機能報告というものをしています。」

そして最後に、医師会や救急センター、役所、消防関係、医療・福祉の各関係団体などが共同し、できるだけ入院せず普段の生活の中で対応していけるような体制づくりをしているという、東京都八王子市での取り組みを紹介されました。

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「病院で死なないこと」を基本目標に ―浅川 澄一 氏

高齢者ケアや介護保険制度についての取材や執筆をされ続けてきた浅川氏は、「病院で死なないということを国の大きな政策の目標にするべき」と、最終的に何を目指すのかを明確にすることが必要と話されました。

日本では8割近くの人が病院で亡くなっている中、欧州諸国の病院での死亡率は5割前後、特に在宅ケアがすすんでいるオランダは3割以下とのこと。英国やオランダでは、家庭医が病気の9割を診ており、二次・三次医療が必要となるのはよほどの難病や大手術の時のみだそうです。浅川氏は、日本では患者がいつでも場所を選ばず大きな病院に行けてしまうことが、地域包括ケアの中に医療が入れていない要因となっていると指摘されます。

さらに、今後は死に方の問題まで視野に入れた医療やケアが必要になっているにも関わらず、その考え方が現場に活かされていないという点も指摘されました。「身体機能がだんだん弱っていく中でも日々の生活がある高齢者を支えるのはQOL(Quality of life:生活の質)やその先のQOD(Quality of death:死に方の質)です。今後は、死に方の問題まで視野に入れた医療やケアが必要になっているにも関わらず、未だに入院医療では『救命しなければいけない』という考えのもと延命治療がなされているのはおかしいのではないでしょうか。」

また、地域包括ケアへの近道として、サービス付き高齢者住宅(以下:サ高住)の新しい形を提案されました。拠点型サ高住(住宅に訪問診療、訪問看護、小規模多機能、24時間訪問介護看護の機能を併設)の形態はかつてよりご自身も支持してきたことと浅川氏は語りますが、収支が取りにくいのが難点といいます。そのため、資金力がある業者が拠点型サ高住を設け、その周囲500m以内にある他業者の運営する分散型サ高住にサービスを提供するという形で上手く連携がとれれば、持続可能な運営となるのではないかと話されました。

「事業力やマネジメント能力のない既存のサービスに頼らずに、本人の選択、家族の心構え、本人のニーズを組み上げたサービスをつくっていくのが、これからの時代でないかと思います。」

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次ページ >> ディスカッション:地域包括ケア時代の施設のあり方

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医師プロフィール

佐々木 淳 総合診療科

1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

佐々木 淳
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